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ハーバード白熱教室 in 安田講堂リポート

この度、メールアドレスを頂いている寄付者の方々を対象に3組6名様を「ハーバード白熱教室」にご招待致しました。当日の模様を報告致します。

Img_0182 2010年8月25日午後3時、東大安田講堂で突如「正義」が語られ始めた。800人の聴衆を前にNHKの注意が始まる。「前置きは不要、率直に意見を言う。名前を聞かれたらファーストネームを言うこと。」(今後、学生側の発言者はファーストネームで表現する。)
サンデル教授は冒頭から挑発した。「これから正義について議論しよう。友人から『日本人は恥ずかしがり屋だ。議論には参加しない。』と言われた。皆さん、大丈夫だろうか?」ユータローが答えた。「我々は新しい世代だ。心配ない。」(場内拍手)

サンデルは刺激的な例から入る。「19世紀イギリス、4人の船員がボートで漂流した。3人が一番若いキャビンボーイを殺し死体を食べることで生き伸びた。彼らは罰せられるべきか?」アキラは功利主義者だ。「全員死ぬよりも1人を殺した方が社会的に有益だ。」リョータは自律を重んじる。「道徳的に許されない。重要な問題は本人の許可が無いこと。」カオリは違う。「状況に関係なく人を殺すことは間違い。」ヨーヘイは「自分の体は自分の物ではない。自分で死んでいいという権利はない。」と言う。サンデルはどれも否定しない。

次は収入の話だ。「イチローの年収は18百万ドル。オバマ大統領は40万ドル。イチローはオバマの42倍の年収に値すると思うか?」ユズハは「イチローはチームの人にだけ影響している。オバマは核兵器のボタンを押すことで別の国にまで影響を与える。イチローがやっていることはオバマほど大事ではない。」と言う。タカシは違う。「イチローは自分の才能・努力によって市場から金を獲得している。問題ない。」サンデルはこれも否定しない。

次の問いは「もしも入学試験の成績がギリギリの人の親が5千万ドルの寄付をすると言ったらどうするか?」功利主義者アキラは否定する。「功利主義的にも許されない。メリットは学生にだけ。社会の公正さが害される。」ミホも反対する。「金持ちの家、貧乏な家、どこに生まれるかは私自身には選べない。」

Img_0118 サンデルはここでも誰の意見も否定せずにまとめる。「ボートで死んだ少年、収入の問題、高等教育への入学を議論した。皆が合意すると言うことはできなかったが、議論をすることで自覚してなかった3つの考え方、幸福の最大化、人間の尊厳、美徳が明らかになった。哲学は抽象的だと思っているかもしれない。有名な哲学者の考え方には我々の日常的論理が入っている。皆さんは素晴らしい議論を行った。今正義と言う抽象的な問題について確固たる議論ができるという可能性と希望が見えて来たと思う。」

「次にマサチューセッツ州出身のバルジャー兄弟について考えよう。ビリー・バルジャ―はマサチューセッツ大学の学長で古典学者だ。ホワイティ・バルジャーは暗黒街のボス。沢山の殺人を犯した。FBIリストのトップ10に入る。電話で兄と話をしている。当局は兄に弟の居場所を聞いた。しかし、兄は弟を見つける為の協力はしないと回答を断った。これは間違っているか?」ダイチは告発する。「兄弟の場合でも警察に協力する。他人と家族を区別するとモラルの一貫性が保てない。」ナナは家族を守る。「私は弟を守る。たとえ10人殺していても。」(拍手)ヨシマサは本人の為に告発する。「更生させることが重要。本人にとっての幸せを考えてもつきだすべき。」

次は国の話だ。「パキスタンの災害への救援が行われている。日本にも責任、義務があるのだろうか?」ケンジは共同体主義者(コミュニタリアン)だ。「自分 が大人になる過程での人格形成は家族、友人、日本の社会による。まず日本、次が国外ということになる。」在日韓国人のジュンフクは全く違う意見を言う。 「日本にも韓国にも愛着はない。日本人、バングラデシュ、どちらでもいい。大災害かどうかとか、違う観点から考える。」(拍手)

Img_0086 サンデルは更に難しい質問をする。「道徳的な責任は世代を超えるのだろうか?現在の日本人は1930年代にアジアで犯した罪に対し公に謝罪する責任がある のか?」ナオキは否定する。「日本人が1930年代に起こしたことを謝罪するのは間違えている。今の世代は今やっていることに責任があるが過去に対しては ない。」エイサクも同じだ。「過去の罪は歴史として認識しておかなければならないが、昔の話をずっと謝り続けることはできない。」ナオコは繋がりを言う。 「祖父は戦争に参加している。自分は祖父と繋がっている。相手が痛みを忘れるまで謝るべきだと思う。世代は変わってもずっと責任を負うべき。」(拍手) リョータは複雑だ。「一度は賠償すべきと思う。続ける意味はない。次の世代は選ぶ自由が無い。未来永劫謝罪する必要はない。」(拍手)マコトは謝罪すべき だと言う。「謝罪すべし。これは現代の問題だ。文化は連続している。」

サンデルは禁断の話題に踏み込む。「今のアメリカの世代は原爆に責任を持つと思うか?オバマ大統領は謝罪すべきか?」広島出身のケイが答える。「戦争は国 というコミュニティ間の関係。会社で担当者が変わっても契約は変わらない。人が変わってもコミュニティ間では責任は残る。戦争には勝敗がある。負けた国に も被害はある。それは賠償されなければならない。」(拍手)コミュニタリアンのケンジが総括する。「オバマは謝罪すべき。核の脅威をなくすと言う意見は謝 罪をしなければ説得力が無い。オバマは原爆を落としていない。だからこそ謝罪をして核のない世界を目指すことが可能である。そうすることでオバマは世界の リーダーになれる。」(拍手)サンデルは更に踏み込む。「日本も謝罪すべきと思わないか?その上で米国も謝罪するというのが良いと思わないか?」ケンジは 逃げない。「未来志向でお互いがお互いの話を聞いて、何故そうしなければならなかったかを明らかにする。その上でお互いに謝罪すべきだ。」(拍手)

Img_8978 サンデルはついに大団円に持ち込む。「美徳及びコミュニティのアイデンティティについて議論があった。最後に責任について議論した。公の謝罪、過去の賠償 は最も難しい政治的課題である。これ以上難しい議論はない。ここで色々な意見が出た。みんながお互いの意見を理解しようとした。疑問は解決されてない。米 国が核の脅威にさらされた世界の中で謝罪を行うべきか?結論は出ていない。多元的な世界の中で我々は道徳的な問題に直面している。我々はシンプルなキャビ ンボーイの話から始めた。次に我々の生活に近い収入の格差、高等教育の問題、そして最後には国の謝罪の問題に至った。我々は徐々に議論の展開の仕方に慣れ ていった。ここに集まった人たちのこの議論の仕方、お互いの意見を理解していこうという姿勢は安田講堂の外に出ても重要なことだ。友人に「日本人は積極的 な議論ができない」と言われたが、それは間違いだった。意見が異なる人たちが時間をかけて解決不可能なテーマについて話し合いをするは無駄と言う人がい る。偉大な哲学者も意見は一致しなかった。しかし今、私たち全員が哲学が世界を変えることができると知った。友人の話と違い日本人は素晴らしい議論ができ ることが判った。友人は間違っていた。今日は本当にありがとう。

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講義の後、寄付者の方々の感想を聞いた。「学生たちはいい議論をしていた。」「自分も手を挙げたかった。今度は中高年用を企画して欲しい。」「自分たちは今まで道徳を正面切って議論してこなかった。新鮮だ。」「今日の様な授業であれば哲学も判り易い。」どなたも長時間の講義の後にも拘わらず興奮した面持ちで回答された。

文:廣瀬 聡(渉外本部シニアディレクター)

 

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